2013年1月17日木曜日

騎士の息子


私生児のフィッツがたどった数奇な運命を彼の独白で回想する。

騎士の息子、帝王の陰謀、真実の帰還と続くファーシーアの一族三部作。ファーシーアの私生児であるフィッツの幼少期から六公国を襲った激動の時代とともにあった青年期までを彼の回想という形で追体験する。

面白い。とにかく面白い。痛快な出来事などは数えるほどしかないし、胸のすく展開というのも少なく、どちらかというと陰鬱に寒さ、空腹、怪我、頭痛にさいなまれている描写のほうが作中の大半を占めているのだけれども、フィッツの日々の生活を彼の葛藤とともにこれでもかと濃密に描くことによって否応無しにフィッツへと感情移入させられる。彼の若さゆえの愚かしさや無鉄砲さ、彼本来の清廉さや頑固さにときにやきもきしつつもニヤニヤしてしまうことは間違いない。脇を固める登場人物たちも彼同様に魅力にあふれ世界観の補強に一役買っているし、「技」や「気」などあの世界の根幹をなす魔法の描写も詳細に繰り返されるので非常に説得力をもつ。ナイトアイズ最高!!私も気の魔法が欲しい。

また物語が進むにつれてフィッツを取り巻く状況が複雑化していき、それにあわせてページ数も増大していく。騎士の息子では上下あわせて700ページぐらいだったのに、帝王の陰謀、真実の帰還にいたってはそれぞれ上下あわせて1100ページと非常に読み応えがある。

お気に入りのファンタジィ小説だ。

著者は三部作が好きなようでファーシーアの一族三部作の続編として道化の使い三部作が邦訳されている。これがまた面白い。ファーシーアの一族にはまったのならばこちらも必読だ。

2013年1月8日火曜日

死者の短剣


ビジョルドのファンタジィシリーズ。

惑わし、遺産、旅路と続く死者の短剣シリーズ。四部作らしく最終作は未訳。湖の民ダグと地の民フォーンとの交流を中心に、悪鬼が脅威を与える世界の風習、風俗を生き生きと描いている。

いままでのビジョルド著作とは趣が異なりかなり淡々と物語が進行していく。要所要所で盛り上がりはあるものの、どちらかというとそれぞれの民の風俗の説明などに紙数が大きく割かれている。が、つまらないかといわれればそのようなことはなく、詳細に描写される世界は実際にどこかで存在するかのように訴えかけぐいぐいと物語へ没入させてくれる。

また他の著作と大きく異なる点が各巻のはじまりにある。ビジョルド著作のシリーズものはシリーズものであっても大体どこからでも読めるようになっているのが死者の短剣は前作が終わったところから始まるのでビジョルドには珍しい連作ものとなっている。さらにファンタジィ小説と説明したけれど実際にはファンタジィラブロマンスものなので読んでいてニヤニヤできるという点も珍しい。

珍しい点が多々あるシリーズだけれども大変面白い小説なのは間違いない。

チャリオンの影


ヴォルコシガンサーガのビジョルドが綴る中世ファンタジィ三部作。

今作はチャリオンの影、影の棲む城、影の王国という影シリーズ(実際には五神教シリーズ)ともいうべき中世ファンタジィ三部作の一作目にあたる。舞台はイベリア半島を上下反対にしたような地勢で、北方沿岸に四神教を奉じる五公国があり、その南方に五神教を奉じるチャリオンらの国々があって南北で長年対立しているという状況。

主人公はしょっぱなから尾羽打ち枯らしたみすぼらしい格好で現れ、寒さと疲労、空腹、さらには大怪我も満足に癒えてないというなんとも読んでいてつらい鬱々とした状況で物語が進行する。今作はヴォルコシガンであったような軽妙さは鳴りをひそめ全編そのように疲労や前方にたちこめる暗雲がこれでもかと描写されるので陰鬱な雰囲気が充満している。そのため主人公が華々しく活躍する活劇のようなものはなく、どちらかというと忍従を強いられる展開の連続となっている。

舞台設定はビジョルドらしく五神教やそれにまつわる風俗、風習にいたるまで大変によく作りこまれていてチャリオンの世界を堪能させてくれる。

全体としてすかっとする話ではないながらさすがの筆力というかぐいぐいとひきつける魅力は健在で次へ次へと先が気になって仕方が無かった。二作目の影の棲む城は陰鬱さが薄れ軽妙さが増すので面白さが倍増している。三作目は未読。